1-1. 前提条件となる2008年の国内経済環境の概括と特徴
2008年の後半、懸念されていたサブプライムローンの破綻増に端を発する金融の不良債権化により、多くの金融資産の価値が下落し、金融資産を保有している多くの企業経営や会計に大きな影響を与える事態となった。この余波は、グローバル経済の状況下で世界の金融経済に影響を及ぼすこととなり、投資資金の移転によって、金融商品価格及び各国通貨間における極端な変動なども招くこととなった。取分け、基軸通貨であるUSDに対する為替レートの極端な変動は、多くの産業に打撃を与えた。
日本国内の産業に与えた影響には、まず円高がある。力のある各国通貨の中では比較的安全と評価された日本円への投機資金流入による急激な円高は、今年度の期首想定レートのレンジから大きく下ブレして、為替レートの急激な変動によるリスク面を真っ向から蒙る事態となった。高いときに材料を買って安く売らざるを得ない状況となったことで、海外から資材調達を行い、製品に加工して海外に輸出する取引を行う決済通貨をUSD/EUROとする多くの日本国内の輸出産業は、この円高によって営業利益が圧迫された。為替の問題に加えて、先に述べた金融資産の不良債権化を受けた世界マーケットの株価低迷も大きく影響する。現金で全資産を保持する企業は皆無に等しく、保有している株式や債券などの評価損も軽視できない(※このため、投資家対策の一つとして、日米欧では会計を時価評価から簿価評価への変更を検討している)。
この事態が及ぼした企業への影響は、例を挙げて計ることが出来る。世界に商品を輸出するエレクトロニクス企業、ソニーの平成21年3月期第2四半期(2008年7月〜9月)における決算報告では、売上高が前年同期比0.5%減の2兆723億円、営業利益が同90.1%減の110億円、当期純利益が71.8%減の208億円の減収減益となっている。同年の前四半期と営業利益ベースでの比較を行ってみると、いかに今回の事態によってダメージを受けたかが明確である。減収減益の決算内容は、各産業のリーダーシップ企業においてほぼ同様の結果となり、輸出に大きく依存するトヨタ、任天堂、キヤノン、リコー、いずれも業績見通しの下方修正及び減収減益の決算内容となっている。むしろ、前期比で成績の良かったPanasonicの決算発表に違和感が感じられる程だった。
先に輸出企業を例にとったが、問題は輸出企業だけにとどまらない。広く取引が連携して行われている現代経済では、一つの問題が他へも波及することは避けられず、今後は実体経済への影響が考えられる。今の段階では、まだ金融資産の損失が表面化しているのみであり、その損害に対する結果が見えているだけであるが、今後は評価損や売上の低迷をカバーするため・業績維持等を理由に、人員削減などが実施される傾向があるだろう。このことは、結果として消費を落ち込ませるスパイラルに作用する可能性を含み、現在のトレンドが続く過程での長期スパンでは「物が売れない」という直接の営業不振が危惧される。
以上をもって2008年秋時点での国内経済状況の概括とするが、その特徴と本稿で補強するプレゼンテーション資料との結びつきを、以下のように認識することができるだろう。
1-2. 広告出稿に関する企業意識の調査と導かれる方向
広告出稿に対する企業意識が現在どのような状況であるかを分析することは、プレゼンテーション先の企業を絞り込むために非常に有用である。いくつかの資料やニュースを用いて企業意識を探ってみると、総じて広告出稿費用の削減を示す内容が多いことを発見できる。しかしながら、広告費用の削減=必ずしも出稿本数の縮小というわけではなく(※無論、これまでよりも広告宣伝費に対してシビアにならざるを得ないだろうが)、その方向性が変わってきているという点には注目する必要がある。
まず広告費削減の動きそのものについて、全体的に減少傾向にある証左を至近のものから得ることにする。クライアント企業側のスタンスを示すニュースとして、「J-CASTニュース : 自動車業界、広告費大幅削減 新聞などマスコミに大打撃?」(http://www.j-cast.com/2008/09/01026062.html 2008年9月1日、他ニュースサイトでも同一内容の掲載あり)によれば、某自動車メーカーの広告費3割減目標という内容が伝えられている。また某ビール販売メーカーでは、広告宣伝費と販促費の削減も奏功して黒字達成というニュースが伝えられた。
更に広告代理店及びメディア側の状況から広告費削減の影響に関する証左を得ようとすれば、広告メディアとして最も大きな力を持つテレビ局の広告収入減が数字として現れている(※例:テレビ東京は2009年3月期連結決算の税引き後利益が、広告収益の減少を理由に8月時点で予想した18億8300万円の黒字から1億5200万円の赤字に転落する見通しを発表。赤字転落は33年ぶり)ことに注目できる。ここで特筆すべきは、削減対象となる広告メディアは、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌など、いわゆる既存4大メディアが対象となっていることである。
反して、デジタル広告への出稿意欲は伸びている(※調査資料の引用は割愛、ポータルサイトなどの広告出稿状況やクライアント企業を見よ)。このことが示すのは、2000年以降からの比較的緩やかな流れながら、インターネットやモバイルをメディアとした広告が徐々に認知されつつある状態であると看做せる。但し、デジタル広告の主導権は、これまでIT企業によって作られてきた。新しい広告形態には、マーケティング手法から出稿までを大手代理店に任せておき、それが当然のルールであり誰もが疑いを抱かなかった従来の広告ビジネスとは異なる状況が多い。そのため、納得の出来る効果測定手段がクライアント企業から求められるだろう。アフィリエイト広告でも踏襲して用いられる指標にreach by frequencyで得られる対象人数と露出回数の多さを重視する測定と判断が行われてきたが、消費行動の変容やインターネットの双方向性を活用したエンゲージメント(※顧客との結びつきやコミュニケーションを効果指標として考える)など、デジタル広告においては既存メディアと異なる新しい実効性と評価がしてきている(※この点、本稿の対象であるプレゼンテーション資料で述べられている企画自体には、やり方次第でエンゲージメントを持たせてアピールできると判断される)。もちろん、クライアント企業によっては、従前のclick per view(impression) などを重視する場合もあるだろうから、この点も考慮に入るだろう。
では、ここまでに述べた広告メディアの状況などを総合して、短中期的に導かれるであろう広告出稿への企業意識や重点をまとめると共に、付帯的な事項なども併せて列挙する。
1-3. 前節から導かれるプレゼンテーション先の選択とその理由
これまでの内容から得られる状況を見れば、場当たり的な提案を闇雲に行うのでは、プランの成功どころか経営資源の無駄な消費にも繋がりかねない。そこで、本稿の対象プランを成功へと到達させるためには、プロスペクト企業の選択が重要という結論を導き出せる。現在の経済環境にあったプロスペクト企業とはどういった業界や企業なのか?着目できる要素としては、いわゆる不況に強いディフェンシブ業種の存在や、全体的な消費の落ち込みを奇貨として、戦略的に業界でのシェアを拡大しようと目論む野心的な企業の存在などがあり、このような要素から積極的に絞りみたい。
プロスペクト企業を検討する際、企業の立場も考えてみる必要がある。現時点でマスメディアや他媒体に広告の出稿が行われており、露出やブランディングが十分であると判断される企業には、本稿の対象プランがそれほど魅力的に映らないかもしれない。広告の出稿が多い企業は、一見すると宣伝に意欲的と受け取れるかもしれないが、経済環境と広告宣伝に関する計画(※効果・出稿先・予算)などを類推して判断すれば、「現行の広告計画に割り込む余地」の存在に懐疑的にならざるを得ない。その理由として、第一には経費削減対象の候補であること、「いいお付き合い」の関係にある広告代理店及び経由する出稿ルートに対する変容を必要としていない事を挙げたい(※企業の広告宣伝を任されている取引代理店と周辺に関しては、いずれにせよデリケートでなくてはならないだろう)。
では、具体的なプロスペクトを業種で考えてみたい。下図は、本稿の対象プランがターゲットとなる年齢層や嗜好に関する特徴と、繋がりそうな消費行動との結び付けを行ったものである(※この分析は、更に調整の余地があることを付記する)。
2-1. 企画から得られるメリット抽出に不備は無いか
本稿の対象プランを説明するプレゼンテーション資料には、広告効果を明示している部分が無いため、先方が投資効果とメリットを判断する際の指標に乏しいと考えられる。この場合の効果は、インターネット広告と同様の概念に基づいたプライシング理論の見地から、具体的に示すことが重要である。下記は、その一つのケースとして挙げるものである。
(1) 従来型の露出を用いて広告を行う場合、効果eは (インプレッションi /総露出量v)に留まり、総露出量を増やさなければ広告効果は見込めないことになる。総量が同一の条件下で効果eを向上させるには、インプレッションi を増加させるしかないため、多くの企業や代理店は同一の媒体上でflashなどを用いるが、「見てもらうだけ」という本質的な露出形態そのものに変わりがあるわけではなく、劇的な効果を見込むには踏み込みが浅いと言わざるを得ない。
(2) しかし、本稿の対象プランを活用した場合、露出型の広告効果に加えて、以下の効果が同時に生まれることが重要である。いずれも、相関して乗数的効果を持つことがメリットとなる(※順を追って相乗性による効果拡大を説明すると尚良い)。
2-2. 企画実施における戦略、及び柔軟性を持たせることへの提案
本稿の対象プランを実施する「プレゼンテーションを行う側」そのものに対して、各部に検討できる余地があると思われる。ここでは「ネームバリューの向上」「パイオニアとしての実績作り」「将来的なシェアの確保」を戦略的な目標に見据え、将来的な広がりを第一視野に入れて、企画内容についての再検討を提案する。
現状は経済環境自体が消極的な局面である。従って、思うほどの営業結果を見込むためには、相応の労力が必要であるし、営業収益がマイナスであることは避けたいが、業界内での足がかりを作り、そのシェアに関する第一人者企業を目指すことが視野に入るのではないかと考えられる。実施当初から採算ベースを確保した事業プランとして成立させられるのならベストだが、今後の継続した取引や実績作りの為に、制作費用の圧縮が可能であれば検討されたい。
3. プレゼンテーション資料の変更点に関する示唆
〜以下略〜