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コンサルティング アーカイブ

2007年10月10日

コンサルティング契約について

コンサルティング契約について、契約内容・やり方・対価(料金)など、不明な点が多いのが一般的な認識だと思います。当方での業務内容や期間などを含めて、記事にしてみたいと思います。もちろん、他の企業では異なってきますので、あくまでも当方の業務の流れとして、参考程度にお読みください。

●依頼内容
 当方ではPCやネットワークに関する多数の技術を所有しておりますが、コンサルティングの依頼内容は本当に様々です。官公庁から、コンサルティングと開発込みでデータベースシステム構築の依頼があるかと思えば、次の日には一般の方から、PCが壊れたんだけどどうしようという電話が入ったりします。
 先の例のように、お問い合わせ元に計画性のある依頼内容でしたら、改めて折衝をすることになりますが、後の例のような一時的なご相談で、なおかつ問い合わせ内容に関して簡単にお答えをお返しすることでお力になれる件については、その場で提案を差し上げています(これでは無料相談で労務時間を失ってしまうのですが、頼られてのお問い合わせですし勉強にもなりますので、出来るだけお答えをするようにしています)。
 もちろん、当方の能力でしか発揮出来ない案件が最も双方のためになるのですが、長くやっていると、本当に色々なご相談があります。お問い合わせを受けるこちらでも驚くような、意外な内容があったりします。そのおかげで、勉強の幅・知識の習得や、新たな事業指針が得られることもあります。
 そういった意味では、お問い合わせを頂くこと・それだけでも、当方にとって面白いと思います。ですから、依頼内容については、基本的にコンピュータ関連のお話であればどんなお話でもお聞きしたいと思いますし、時間的・内容的にお力になれる可能性があって、「困っていることややりたいこと」について当方から提案が出来るようであれば、より具体的にお話をお伺いしたいと考えています。

●スポット契約
 スポット契約とは、単発の案件に対してのコンサルティングを行う契約をいい、多くの依頼主の方がこの契約方式を取っています。◎◎という問題に対して、■■という形で結果を出す、この時点で業務の完了となります。
 例えば、「メールマガジンを発行したいが、その為に必要な内容と経費を産出し、具体的な実施までのフローを検討して欲しい」というコンサルティング依頼があったとします。この場合、その資料を提出することで、契約が完了となります。そこから更に、「メールマガジンの運用状況を3ヶ月間に渡って分析し、その効果測定を行って欲しい」という依頼が付与されれば、その場合はその期間内が契約対象となります。
 実際に問題解決や新たな行動指針を必要としている依頼主の多くは、既に問題意識をお持ちであり、その点に対して納得のいく解決策や妥協案を得ることを目標としていらっしゃいます。その性質上、担当者・部門クラスでのお問い合わせなどは、ほとんどこの契約で処理が行われています。

●期間契約
 期間契約とは、案件の存在に係わらず、月額・年額でのコンサルティングフィーを申し受ける契約です。主に経営者の方が直接ご契約を締結され、上位に位置する依頼主であり、当方は相談役としての役割を果たしています。例えば、ITを導入された企業で、何かあったときに相談できる信頼感と安心感のために、年次契約を結ばれるようなケースです。
 ITを導入している企業の場合、ちょっと詳しい従業員に管理を任せる企業がありますが、当方が期間契約をしている企業では、
×「当該従業員の実務時間・能力をすり減らす、間接作業によって固定費負担が増える」
×「正社員雇用される従業員は、本業のスペシャリストとして労働時間を活用して欲しい」
×「従業員の流動によるノウハウ流出も、運用出来なくなることも、いずれも望ましくない」
×「かといって、IT専属の管理部門を置くような状態ではない」
などの理由で、当方へのコンサルティング契約を行っていらっしゃるようです。
 相談役として少し近い例を挙げるとするならば、IT関連のセミナーが似ていると思います。しかし、大勢の人に与えられるノウハウは実はそれほど重要でもなく(※受け売り・基本的過ぎる内容など)、大勢に与えられる時点で、既にノウハウとしては拡散しています。そのようなセミナーと比較してみると、仮に月に一度、当方が相談役として招ばれた場合、ここ(ホームページ)では絶対に書かない、ノウハウ・時事・動向・現状分析などが、依頼主に対して提供させて頂いています。
 当方の立場から考えますと、期間契約は業務の自由度を制限される点に不自由は感じますし、また相談役としてのノウハウ供与の密度を下げることも出来ませんので、依頼主様を選ばせて頂く結果になってしまうことを否めません。また、双方のコストを加味できずに担当外の内容まで役務化する経営理念の方とは、期間契約ではむしろお付き合いが難しくなりますし、そういった意味では、経営者として・また人格として一流の方が、期間契約によって当方の時間と能力を購えると言えます。こちらは、スポット契約とはまったく性質の異なるコンサルティング契約です。

●業務への取り組み
 スポット契約では、依頼主の問題点を明確にし、わかりやすい形で提案までお世話が出来ることが結果となります。短期間であり、問題提起が明確であるからこそ、もっとも力の入る業務です。
 期間契約では、費用負担・事業内容・経営者様に対して、いざと言うときの安心感と、相談役としての役務を果たすことを主眼においています。
 実際の業務では、契約内容にも様々なケースがありますけれども、ご相談は随時お待ちしています。当方と依頼主、どちらも満足の出来るお付き合いが出来れば幸いと考えます。

2007年10月29日

ITコンサルティングの実像

ITコンサルタント・ITコンサルティングというと、大手のSIer企業や情報を取り扱う大企業などでは、クライアント・上流・下流を結ぶ立場の役務として、それほど遠い存在ではありません。セットになって派遣されてきますから、当たり前のようにいらっしゃいます。けれども、ITと係わり合いの薄い大多数の人にとっては、ITコンサルタントって何するの?という印象ではないかと思います。そこで、一例ではありますが、ホームページの制作発注を題材に使っての説明と、「実像」と言っては大げさですが、まつわる話などを。

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中堅・中小企業の事業主様ですと、【新しいビジネスモデルを模索している】【社内へのシステム導入】【ウェブサイトの開設】という具体的な要望を持っているにも関わらず、まず最初に何をどうしたらいいのか?という疑問で途方に暮れてしまうような状況が、かなりのケースを占めるのではないかと思います。

仮にウェブサイトを発注して公開したい・と思った場合、ホームページ制作会社は山のようにあります。取りあえず検索エンジンで色々探してみるものの、広告を出しているような大規模制作会社は制作費が高い・さりとて、料金で決めていいものなのかどうか?取引相手として、信頼できるかどうか?など、序盤から手間隙が掛かり、本業以外にそれらに頭を使うだけでうんざりしてしまうと言うお話を、よくお聞きします。

問題は、ITという業務内容では、納められる品物が「よくわからない」ことにあります。ホームページと言っても、単純に価格で見積もりを取ればいいのか?デザインが綺麗な自社ページを持っていることろが望ましいのか?それとも、実績を謳っているところが安心なのか?など、発注先選定・価格と納品内容の判断材料は、折り合いがありそうでないようなものです。価格破壊的に10,000円で作りますと言うところもあれば、修正3回まで保障・30万円で作るところもあれば、初回は10万円で作り、5万円@12ヶ月のサーバ費用と維持管理オプションで制作をするところもあります。それでも、出来上がってきた結果が「どういう点で良いのか」「どういう点で悪いのか」の判断は、一概に付けられません。費用対効果が直接利益でしか判断しづらいのはどの業種も同じですが、システム導入にしろ開発費にしろ、これだけ値段がバラバラな業界も珍しいと思います。

そういう曖昧さがあるがゆえに、IT業界は、有象無象が跳梁跋扈する業界になっています。そして狭い業界ですから、色々と悪い噂も聞くわけです。「○○って会社の××、あいつとは2度と仕事はしたくないし、あそことは金輪際取引は持たない」とか、「△△っていう会社に制作を任せたら、高額の請求にも関わらずとんでもないものを納品してきて、クライアントが尻拭い業者を必死で探しているらしい」とか、色々な事を耳にします。

ITコンサルタントは、問題点の解決を考える職業ですが、色々な問題に対処する「専門のブレイン」の役割を果たすと私は考えて実施しています。上記の例の場合、代理店経由で探すとします。その場合、代理店は単に紹介や仲介の場を与えているのみで、実際に発注する業者の選定は結局自分で考えなくてはならなくなりますし、代理店もその企業の納品内容までは一切責任を持ちません。しかし、コンサルタントの場合は、顧客との密度が高いわけですし、最終的には顧客に利益を与えることが仕事であり実績になります。その為に、一歩踏み込んだ分析や調査を行い、また納品されてくるものの価値判断も行います。そういった意味で、ITコンサルタントを活用したほうがより好ましい結果を得られると考えます。

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ただし。「コンサルタント」と聞いて、どんなイメージを持たれますか?「何が出来るのか得体が知れない」「胡散臭い」「インチキ臭い」と思う方が、かなりいらっしゃるのではないでしょうか?そのイメージは、かなり当たっています。火の無いところに煙は立たず・の譬えもあります…

ITの全体業務では、プロジェクトマネージャ・プログラマ・システムエンジニア、色々な人が関わります。そんな同業の人たちから、最も悪い目で見られることが多いのがITコンサルタントです。「全く仕事をしていない」「週1回の中身の無い会議に参加して、なんかわけのわからないことを言ってそれだけで高い労務費を取る」「たまに顔を出したかと思うと引っ掻き回す」「クライアントとの調整が主業務なのに、折り合いが付けられない」…これほど同業者に嫌われる端的な「職種」も、なかなかありません。

ITコンサルタントは、IT業種の中で最もスキルが低くても勤まる仕事です。勤まるというか、名刺を刷れば自称できるくらいな感じです。プログラミングが出来なければプログラマは名乗れませんが、それなりにコネがあって、ちょこちょことあちこちに顔出しだけして「実績」にしてしまえば、もうITコンサルタントの出来上がりです。もちろん、そういった人は数少ない(と思う)ですし、中身を見透かす人も多いと思いますけれども、コネでITコンサルタントが呼ばれてきた場合などもありますね。

できれば関わらずに後難を避けたい…もし、そんなときがあれば、人間力と能力は、ある程度類推できます。

  • お調子者の軽薄さは無いか?
  • 否定的要素にも触れることを厭わないか?
  • 単純な問いに、具体的な即答が出来る能力があるか?
  • 専門用語で自身のイメージを粉飾しようとしていないか?
  • 本人にとっての「殺し文句」の同じキーワードを、何度も乱用していないか?
  • 脈絡に関わらず、ずっと同じことばかり言っていないか?
もっとも、この程度で底が割れてしまうというのも考えものですが…

※敢えて、ITコンサルタントについての批判的な面・極端な例も書きました。

2007年11月20日

IT関連・見積もり算定と取り方について

何かを発注する際には、どんな業種でも見積書(見積もり書)が必要とされます。しかしながら、IT関連の見積もりの場合、他の業種と異なって、見積りが理解しづらい・取りづらいように思います。IT業界の中にいてすら不透明感を感じるのに、他業種から見ればなおさら、その内容・妥当性などがわかりづらいのではないかと思います。そこで、見積りに関連する項目や明細、事柄をいくつか列挙して、ご参考に供したいと思います。ただし、一口に見積もりと言っても、その考え方・提示根拠などは、本当に百人百様です。この記事は、あくまでも当方の考えとしてお読みください。

■IT業界の曖昧な点を認識する
はじめに、IT業界の特殊さを、業界の成り立ちを振り返りながら考えます。まず、ITの営業科目が、プログラミングなどの特殊な内容だけに(しかし実はプログラマ単価は安い)、どれだけの営業経費が適切なのか、皆目見当がつかない。高いのか?安いのか?…そんな、「こなれていない」新しい業態と言う点が、ひとつ理由にあると思います。
次に、携帯電話とインターネットという目新しいインフラの登場で、IT業界にはゴールドラッシュのように大勢が参入し、金集めに拍車を掛けました。今では新卒も当然のように採用される規模になり、人が溢れかえっています。その状況下では、大手は高額受注を獲得して株式公開の利益も獲得するバブル状態(もう終わりですが)にある反面、安定した受注先を持たない二次・三次受注企業・小規模事業主は、利益の出ない状態での受注を回し続けなければ経営が成り立たないという実態があります。以上の不透明さと格差による「相場感」の不在が、そのまま色々な差に繋がっていると思って宜しいかと思います。

■不透明性の理由は何か
対価のほとんどが能力に依存する人的作業となること。その労務費算定の基準は、各社が設定した「役務の特殊性・能力」になるため、金額が大きくばらつきます。これが、例えば古くからある業種であれば、長年に基づく相場感がありますから、それを大きく逸脱する対価が提示されることはありません。ITの場合は、業界自体が新しいこともあるため、特殊な作業に対する労務費の妥当性や利益率算定の目論見、いずれの根拠にも乏しい。そのため、見積もり方法が「総額形式(※一式を納品した額面での見積もり)」であれば尚更、果たして提示額がどのような算定根拠に基づいているのか、まったくわかりません。

■では、見積りをどうやって出しているのか
多くのIT関連事業者は、プロジェクトシートを作っていないようです(そういう話を聞いたことがありません)。ですので、他の事業者の方がどのように見積もりを算出しているかはまったくわかりませんが、仮に・仮にですけれども、「この仕事内容でこのクライアントなら、だいたいこのくらいかな」と、発注者の値踏みと感覚から見積もりを設定した場合、固定費はどんな企業でも(個人でも)定額での算定ですから、同じ仕事量だったとしても、ある場合には粗利益での利益率が、売り上げの80%に至るケースも考えられるでしょう。反して、さまざまな事情によって利益が出ない案件でも引き受けるケースもあるのでしょう。

■根拠をどこに求めるかを明確に
当方では、根拠は企業会計に基づき、何を尋ねられてもその根拠をきちんと説明できる、ガラス張りの見積もりが望ましいと考えています。それには、明確な項目である・実制作や納品内容に関係の薄い項目が含まれていない見積もりが必要です。IT関連では、とりわけ市場の金の流れが激しいことに加え、「一部のIT関係企業による高利益率のみに拘って納品はお粗末」「投資家を無視した経営陣の行動」などが、IT関連企業への信頼をも損ね、またITの浸透・更に業界発展の妨げになっているように思います。評判の良くない業界だからこそ、不透明さを無くすことが肝要と考えています。

■見積もり明細項目について
IT関連でよく使用される見積もり明細欄の項目を、まずは挙げてみましょう。以下を例としてご覧ください。

【ウェブ・メディア関連】
本当に単純なウェブページの主な項目です。

  • ページあたり制作単価
    • 基本デザイン
    • 基本css制作
    • 基本プログラム導入(※Ajaxなどの組み込み or スクラッチ開発)
      注)上記段落の3項目は、企業のウェブサイトのように統一感のある全体デザインが必要とされる場合に計上されます。この場合、ほとんどのページにデザインの基礎部分を使い回す事が前提となるので、ページあたり制作単価が(当然ながら安価に)変わるはずです。
  • 特殊ページの制作単価
    注)この項目は、「トップページ」など、情報の付与や特別に手を入れなければ成立しないページに対する対価です。「トップページ制作料」など、具体的に明示されているほうが、よりページ数が把握しやすくて望ましいでしょう。
  • コピーライティング・文章作成費
    注)制作側にコピーなどの文章をどれだけ任せるか、という点に大きく左右されます。基本的には、発注側から原稿の供与があったほうが望ましいと考えます。文章作成を頼む場合は、制作側がよほど文章が上手な人で無い限り、パンフレットなど制作年数の長い専門のライターに発注するほうがいいと思います。
  • 画像/Flash/動画/サウンドなどの制作料
    注)制作が所有している素材を使う場合、デザイン料に含まれている場合があります。
    注)素材の新規起こしは、出来に関わらず高額になる傾向があり、この点は織り込んで考える必要があります。例えば、細かな制御が必要なFlash、独自のイメージイラストが必要などの要求があった際に、引き受け側から更に発注を要する場合があるからです。

【システム開発関連】
ウェブページと組み合わせて使われるプログラムやデータベースに関する項目です。商品カタログ・ショッピングカート・カスタマーサービスなど、多岐に渡ります。
  • カスタマイズ&組み込み
    注)有償・無償・GPLで公開されているプログラムをカスタマイズ(変更)して、システムに使用するケースは多々あります。その場合、カスタマイズ料金も大事ですが、「利用ライセンス」を制作側が理解しているかが重要です。カスタマイズしたプログラムが利用ライセンス違反だったばあい、矢面に立つのは発注者です。
  • スクラッチ開発
    注)独自にプログラムを制作する場合、「工数」という人月計算で見積もりが提示されることが多いようです(※この件は後に触れます)。

■見積書の見方
概ね、上で列挙した内容で考えればいいのですけれども、「営業費」「予備費」「動作確認費」「設置費」「(進行)管理費]などの項目については、気になった点については問い合わせて内容を確認し、納得のいく項目かを判断することが出来ます。これらの項目を設けてあっても別に悪いことではないのですが、不明瞭な点・あまりに納品と乖離した項目などは、確認するほうが双方にとって良いと思います。

■工数とは?
工数とは、「このシステムを納めるためには、n人でxヶ月かかる」という作業単位で、nx人月として表されます。ただ、これが「目安」にしか過ぎないのは、あるプログラムを1日で作成出来る人もいれば、10日掛かる人もいます。これを工数で考えると、1人あたりの単価が同じだった場合、1日で出来る能力のある人のほうが、1/10の営業利益しかえられません。また、だらだらやるつもりで工数を延ばし、売上げに転化するということも出来ます。ですので、工数は、主に制作側の内部管理に使用するのが正しいのですが、なぜかこの工数で見積もりが出る場合がほとんどです。参考までに、当方の場合はあるシステムを作る場合に、日数は提示しますが、システム料金は一括で算出します(※大手企業でも出来ない技術やノウハウを所有しており、工数管理よりも技術料としての算出しか出来ないため)。

■価格の納得性をどこに得るか
大前提として、予算の目安を持つことは必須です。その上で、いくつかの事業者に対して、見積もりを依頼することが現実的です。そして、製作者にとってのは「実例」が一番イメージしやすいでしょう。そこで、最初のコンタクトで、http://**.**.**/と同レベルのサイトは、いくらで・どのくらいの期間で作れますか?」のように、具体的な実例を伴った打診(※見積もりではないですよ)をしてみると、双方でイメージの共有が出来、その先の見積もりへの発展で折り合いも付けやすくなります。

■ポイント1:相見積もりは金額を見てはならない
短絡的に見ていると、ほとんどの場合、失敗するほうを選択するでしょう。安いには理由があるし、高いにも理由がある・その本当の理由を見極められなければ、合い見積もりをしても全く意味がありません。どこが落札してもきちんとした結果が出せる、公共事業の入札制度のような結果を期待するのは、ITのような未熟な業界では間違いです。問い合わせの段階、見積もりを取る段階、そこから既に背景を察することが重要です。相見積もりをさせる背景には、100%お金絡みという視点があります。しかし、もし本当にいい結果を得ようと思うなら、そこで冷静に将来のことまで考えた評価と決定を行うことが、発注側に求められるでしょう。いろいろな交渉を経験してきた当方は、経験からそう思います。

■ポイント2:本当に必要な対価を吝しむなかれ
値切る・と言う状況、別段珍しくありません。値切り方の交渉も人間力を表すようで、うまく譲歩条件を作りながら価格を下げられる人・足元を見る人・「経営が苦しくて」を連呼する人、本当にさまざまな方がおられます。しかし、対価を惜しめば結果も相応と言う当たり前のことを忘れずに。

■ポイント3:交渉の場では双方が腹蔵なく、得心いくまで
発注側も受注側もそうですが、多くの人は大体、相手の人格や品位に敏感だと思ったほうが宜しいと思います。交渉のテーブルに着くときには、品格にご用心あれ。一度下がった「株」や「器量」は、二度と上がることはありません。当方は、人並み以上に「この先付き合っていける方」かどうかを仔細に見ていますし、人もまた、常にこちらを評価しているんだなと思っております。

■ポイント4:業者選定・見積もりをコンサルティングに掛ける
発注する前に、発注内容についてITコンサルタントに相談を行ったり、思い切ってコンサルタントに丸投げしてしまうことは、実はコストも掛からず、悪くない手段です。実力のあるコンサルタントであれば、細部にわたるノウハウ・スムーズな進め方を知っているからです。ただ、そのITコンサルタントの選び方を間違えると、全てが大失敗に終わるという怖さがあります。例えば、特定の業者と癒着して金銭的に不透明な流れがある・発注者の意向を反映できない・折衝能力が無い・技術のことを何も知らず、納品の評価が出来ないe.t.c....

■最後に
見積もりについてまとめてみましたが、結局のところ見積もりは「人」というファジーな二つの存在が、「利益」という一点でせめぎあうものですから、譲歩や妥協・打算があって当然です。そこを踏まえて、納品時に・また先々に渡って、いい仕事が出来たと双方が思えるような結果が得られることがベストです。長くいいお付き合いこそが一番の収穫になること、これは自信を持ってお伝えしたいと思います。

2007年12月17日

顧客と・IT営業と・IT技術の・軋轢

簡単にまとめるつもりが長くなってしまいましたので、いくつかの章に区切ってみました。タイトルに記した論点を述べる前に、まずIT産業のあり方から進めてみたいと思います。IT産業の特殊性・受注(売上)と出来上がり(納品)、それらを取り巻く軋轢から生じる問題点について、順に書いてみます。


IT産業の特殊な点...ほぼ全ての内容を人に依存する産業である

IT産業においては、いわゆる生産力を考えるときに「結果が予測しづらい・人の能力に依存している部分が大きい」点に端を発する、他と異なる特徴があります。建築産業においての「設計・施工」と、IT産業においての「設計・システム納品」とで比較検討してみましょう。

  • 基準と資格・法整備
    建築においては、資格がなければ設計や施工は行えません。また、安全基準なども立法化されています。反してITは誰でも事業活動を行えます。残念ながら有象無象の集まりになりやすく、おのずから質的な低下という問題をはらんでいると言えます(※また情報処理などの資格は、実務レベルでは全く役に立たない)。
  • 判断と目安の不在
    建築の設計施工には、その規模と得手不得手が明確である例が多いと思います。多くの職能をまとめて最終的に建築物を完成させる大規模なゼネコンから、街のエクステリア専門・外壁や塗装専門の工務店まで、技能が細分化されています。それがITですと、得手不得手どころか、発注作業の中身が具体的に想像できないために、判断材料に乏しくなります。結果的にこうあって欲しいという実装要求に対して、「出来るか出来ないか」が重要なのにもかかわらず、やってきたIT営業の口先三寸や、社内で地位のある人間やコンサルタントのコネクションで、発注先が決まったりする例が多々あります。合い見積もりや入札制度を採っている発注元企業も、最終的な決定にどういった指標を使用するか、戸惑っているように見えます。
  • 工数・生産性の基準値
    建築の場合、工数も人月計算も極めて立てやすい。というのは、設計に関しては紆余曲折や能力差があったとしても、少なくとも施工に際しては、必要な資材や工数が正確に見積もれるからです。工事中のビルの看板を見てください。天候などによる影響がない限り、「n月n日の作業予定」が明示されているのに気が付くと思います。

建築であれば誰がどんなレベルの仕事をするのか、工数や資材が見積もりやすいが、ITでは人間がプログラミングなどを行うので、その工数の見積もりが難しく、各人の能力差も大きい。この点を認識しておきましょう。そしてIT産業の対価や人件費は、納品物という実体を伴わないだけに、(支払う側の意識として)割高感を持たれやすい。このことも認識しておいてください(実際にぼったくっているかどうかは個々のケース)。


人に依存する点が多い・伴って結果への影響が大きいということ

IT産業では、設計も施工も全て人間の能力によって行われるということは、能力値による影響が大きくなるということが自明になります。その「能力値」の判断に際して、上場企業であれば能力値の高い人材を確保している・反して、個人事業であれば能力値は低い・というように、ばかばかしいほど簡単に判断できればいいのですが、どう考えてもそんなわけがないことは、社会に出ている方ならよくご存知だと思います。

「個人の能力」があります。無論、全てのベースになります。個人能力は、機械のように安定した生産能力を持つか?と考えるまでもなく、新しい事や難しい問題に直面した場合、そこに安定した生産性は求められません。それを解決するまでには、個人の能力に応じた時間が掛かるでしょう。これも、工数の予測を難しくする一因です。上流でこのような問題が起これば、下流に影響が出ます。

IT以外の古くからある産業では、生産スタイルが確立されている例が多いために、指揮系統の上流能力が仮に低くても、下流でカバーできている事があります。ただ、IT産業の場合は、他の産業よりも人の能力に依存する部分が大きい=管理能力も生産能力も必ずどこかに影響を与えるということですから、ほぼ全てがうまく機能しなければ、他の産業に比べて失敗の元となりやすいと考えられます。過去においても、また現在進行形のプロジェクトでも、そのような例に枚挙の暇がありません。


能力を開花させ・また阻害もする「組織」という集団

ということになりますと、能力不足による監督力や指揮系統の乱れ・さらには能力の低い人間が配置されたときに、生産性が大きく低下したり、最悪のケースでは全体の活動が停止する場合さえ考えられます。全体に能力が高い人員を配備することももちろん大事ですが、まず考えるべきことは、経営組織論に基づいた組織力の強さ=一枚岩で堅牢な組織であることが大切でしょう(※経営組織論は理想なのですが、それを意識するだけでも有用です)。(注:)企業に限定しなくても、複数の人が同じ結果に向けて関わっていれば、それは「組織」です。

タイトルの「顧客と・IT営業と・IT技術の・軋轢」に話を進めます。IT産業では、「営業は出来ていない製品の売り上げを立てて数字を作る」「技術は、営業の取ってきた仕事を製品化する」という事業ケースが多くを占めます。ホームページの制作も、いわばそういうことになります。この作業の内容が、難しくなればなるほど・また規模が大きければ大きいほど、うまくいく可能性が低くなっていくことは、なんとなく想像が付くと思います。その過程のどこにでも、失敗の芽が内包されています。

「失敗や予期せぬ事態は、必ず起きる」という当たり前のことに、多くの人は気づきません。失敗が起きてから慌てふためくのが通常なら、その事態を予め予測して、対策を立てなくてはなりません。そのためには、いくつか大事なことがあります。大切な順に列挙します。

  • 組織体制や開発力を、誰もが正しく認識せよ
  • 経営者(リーダー)は、下流の結果における責任が自身にあることを常に認識せよ
  • 虚偽の申告や報告を行わない
  • 過去の失敗を分析して現在に活かす

上の項目が行き着くところを一言で表すと、「チームワークを強固にせよ」と言うことになりますでしょうか。日本の企業価値観として、もともとスタンドプレーを嫌う社会的な慣習があったように思います。それは、馴れ合いや組織ぐるみの隠蔽など、悪い面への作用をもたらすこともありますが、個人プレーで組織全体を壊さない点は、良かったように思います。最近のグローバリズムの風潮で、組織内には不安と諦念が蔓延し、良かった点までもが失われつつありますが…

往々にして、営業と技術は仲が悪いとされています。すべてはそれぞれの役割分担を認識していないことや、一方的な増長に端を発しています。「俺たち営業が間断なく仕事を取ってくるから、技術のお前らは給料がもらえるんだ」「いつもいつも無理な納期で割に合わない額面の仕事ばかりとってきやがって、営業さんたちは今日も定時でお帰りですか」とか、組織内で妙な軋轢が生じ、その結果、プロジェクトがうまくいかない。こんな内情の組織に何かを任せると、早晩その顧客をも巻き込んだ泥沼が始まります。最終的には、組織の信用が失われて顧客もどんどん離れていく…簡単に想像が付くと思います。そして、こういった内情は、外からは決して見えません。

まず組織対顧客という立場で物事が始まりますから、営業と技術、ひいては組織全体が一体となっていなくてはなりません。アウトソーシングにおいても同様のことが言えます。アウトソース先も、プロジェクトの最中はその一員ですから。


人の能力に依存するからこそ

そのように、組織の内部がまとまりを持つと、組織がうまく回転しだします。そのメリットとして、IT産業でもっとも重要な「人員の能力値」が発揮され始めます。ITが未熟な産業だと私は良く思いますが、業界に係わる人間の質もさることながら、人の能力が最重要な先端産業にも拘らず、あまり良くない組織環境が多いのではないか?と感じるからです。

以下は持論になりますが、「顧客の信頼を得て、それを失わないためにはどうする?」「いい結果を出すことはどういうメリットに繋がる?」「問題を起こさないためにはどうする?」こういったことに対して予め考えること、これが息の長い事業の継続をもたらすと考えています。その場しのぎのような行動は、後で必ず災禍を招くのではないでしょうか。そして、誤った行動をとるIT企業が産業全体に悪影響を及ぼしていることを一つの悪例として、産業に関わる人間であれば、事業への取り組み方を省みてもいいように思います。


付記:顧客の立場からは、どう見る?

さて、外から発注する立場の顧客にしてみれば、内情がわからなければ、どこがいいのかわからないと言う話になります。事実、大手開発企業に委託したが、散々納品を引き伸ばされた挙句に、結局とんでもないものを納めてきた・なんてことは珍しくありません。出来ることならば検討時や発注時に、エージェントやコンサルタントに相談したほうが、後の大きなトラブルや損金を避けるためにはいいかもしれません(※ただ、そのエージェントやコンサルタントが曲者だったと言う話が一番多いのですが)。

2008年01月18日

費用対効果という言葉に思うこと

「費用対効果」は、基幹システム導入を始め、ウェブ制作・公開、はたまたSEOにまでIT業界でも頻繁に使われる言葉ですが、世間一般では、どのように考えて「使って」「受け止めて」いるのでしょうか。そんな疑問から、当方なりの考え方や波及する事柄について書いてみたくなりました。サービスを導入・もしくは利用しようとする際に、その効果や利得を事前にどう判断するか・についても、触れてみたいと思います。費用対効果と言う観点からのプラス・マイナス評価よりも、その期待値や事後の運用などを考える内容にしていければと思います。

根本的に、費用対効果は対価及び得られた利得を材料として、数量化できる結果から判断します。また、「あらゆる効果は求められる利得に最終的に反映されるべき」と言う考え方から、アイデンティティ・印象・イメージなど無形のものに対しては、費用対効果の評価に含めないものとします(※「当社に広告を出せば貴社のイメージアップになります」のような場合、実際にそのイメージアップという材料が売り上げに繋がったことが証明・反映された時点で評価されると考えておきます)。

費用対効果という言葉自体は頻繁に・また色々なケースで使われていると思われますが、当方は以下のような見地で考えています。

  • 基本的に結果から得られるものです。予測は立証が不可能で、ものごとには「絶対」ということがないからです
  • 数量化することで、比較材料になります

「広告を出す」という件について考えてみましょう。広告を出す=商品が売れることが、唯一の効果指標になります。つまり、広告を出した結果が売り上げに直結されなくてはなりません(※広告効果を期待せずに広告を出す、節税やお付き合いのような例は除外します)。

明示できる費用対効果●●円の対価で広告を出す → その広告によってもたらされた営業利益が××円であった

この場合、xx円 / ●●円 の数量化と時間的トレンドなどの条件を加味して費用対効果として判断ができます。ただし、先に述べましたように、このように数量化して判断する費用対効果は、実際に当該サービスを利用してみなければわかりません。そして、事前の目論見や提示される効果や予測は、期待感やセールストークで往々にして大甘に出されるものです。

それでは、当方の考え方とは別に、世間一般ではどうかと考えると、当方のように「数量化した結果のみを費用対効果というデータ値」として使っているケースは、それほど多くないのではと思います。というのは、費用対効果やコストパフォーマンス、ROIと言ったキーワードが、結果が出る以前の営業トークで使われるケースが多いことです。それでも、費用対効果を●●出せます!ROI125をお約束します!というトークは聞いたことがありませんけれども。

そのことを考えると、費用対効果という言葉が最終的に機能しているのは、「納得感」に結びつくような気がします。
「この内容でこれだったら費用対効果は抜群です」
「この事例で過去に費用対効果が出ていない企業はありません」
「費用対効果での収益性は10%アップすると予測できます」
「定量的な費用対効果が見込めるはずです」
「導入企業の8割が費用対効果を感じたとおっしゃっています」

などなど…よく聞くと思いませんか?

ということで、「費用対効果」をあまり気にしてもいけません。と言うのは少々乱暴ですが、具体性を持った数値になるのは事後のことで、それも純粋な抽出の難しさや、評価方法・関連する要素の複雑さなどを考えれば、ある程度の材料で判断を下さざるを得ないからです。相手が「費用対効果」とか言い出したら、まあセールストークのひとつぐらいに考えておくのがいい・というのが、当方の受け止め方です。費用対効果という言葉がセールストークや理論武装に使われることが多いという認識です。

費用対効果というデータは、例えば業務の効率化や人材育成などでは、その効果測定は難しいですし、そもそも他の環境下で得られたデータに踊らされてもよくありません。当方においても、データは分析や予測のひとつの材料ではありますが、全てではないことを常に念頭においています。

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そこから少し進めて考えると、費用対効果などの言葉に頼ることのない、自分なりの事前調査や吟味が必要になりますね。それには須らく色々なファクターや環境などを考えなくてはなりませんが、誰もが実際にそこまで考えることができるかというと、なかなか難しい。だからと言って、事前の判断を無視したり誤るわけにもいきません。そこで、先ほどの例ですと、まず「広告を出すべきか?そして、そこに出すべきか?」という段階での材料が必要となるわけです。それを、いくつか列挙してみましょう。もちろん広告に限らず、サービスでもいいし提携先の選定でも、色々なケースに応用できます。

  1. いろいろ調査をしましょう
    ※サービスそのものよりも、むしろ周辺の状況など。見えなかったものが見えます。
  2. 即答は控えましょう
    ※冷静に考える・誰かに相談する・コンサルタントなどに諮問する、そういった時間は必要です。
  3. 契約書のドラフトをよく読みましょう
    ※当方の場合、若いときに法務の人間が比較的近くに友人としておりました。その薫陶で、「契約書というものが如何に重要なものなのか・契約書にサインすると言うことがどれだけの重みを持つか」ということを、しっかりと身につけることができました。海外との取引ですと、その重要さは国内よりももっと大きくなります。
  4. 有利・不利な契約条項に注目
    ※あまりにも身動きが取れない契約・一方に有利すぎる契約条項があった場合、契約の有効期間と双方の役務と対価を吟味しましょう。
  5. 投資を惜しまないこと
    ※考えもなくただただ値引くなと言うことです。判断する目が曇ります。
  6. (おまけ)投資を最終決定以降は後悔をしないつもりで
    ※後で嘆いても意味がありませんし、自分の事前調査や決定に責任を持つと、以後の冷静な判断や決断が導き出せます。

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多くの人が、実際に手を出してみてから、「お、これは正解だった」とか、「ああ!しまった!失敗した!」と考えます。ITではないですけれども、投資話の詐欺や出資法違反の事例など、いつも絶えることがありません。多くは心の大元に欲があって、その欲をくすぐる手練の営業マンの甘言に乗っかったせいなのですが、今の世の中は「自己責任」の及ぶ範囲が、もっともっと広くなっています。事前の調査はできるところまでしっかりとやったほうが良さそうな時代です。

2008年05月17日

決算期に思うIT投資

上場企業の3月期決算発表は5/15にピークを迎え、その数は過去最多となったそうです。その理由は東証の要請によるもので、当然といえば当然かもしれません。では発表された企業業績はどうだったかというと、円高、一次産品・エネルギー資源の値上がり他、もろもろの理由であまりよくないようです。年の後半には活況を呈するという見方もありますし、企業は落ち着いて力をためる時期なのでしょうね。

決算発表のピークを終えた時節柄、この時期は様々な数字が見えるし、またその数字を見て色々と考える時期と言えるでしょう。ということでIT関連の投資について考えてみたいと思います。でも大規模な話ではなくて、小さな企業や街の商店など多くのケースに向いた内容ですし、大げさな投資でもなく、経営者に限らず管理職の方にも必要とされる、ITの「どんなことに・どの程度のお金を使って・どういう結果を得ようか」という流れにしたいと思います。

●ITの導入には、まず「どんなことをやりたいのか(当方の立場なら「どんなことが必要か?」という提案)」があります。わかりやすい簡単な例で言えば、ホームページによる宣伝や集客の期待・販路の拡大など。または、プロジェクト管理や情報の共有など業務の効率化と社内ノウハウの蓄積など。こういった活用法は、今の時代だとすぐにイメージできると思います。やりたいことは、困っていることから見えてくる・これは、当方の考え方や対応の基本でもあります。もちろん、明らかに「こういうことが必要!」というケースも沢山ありますね。

●次は、どの程度のお金を使って・という点です。決算期というところに話を絡めると、IT導入はコストに反映されますが、大事な点は「コストと結果のバランス感覚を欠いてはならない」ことです。例えば、社内の人が主業務と兼任でホームページを作っているケース、かなり多いです。これがコストと結果において、どのように反映されるか?を、架空の例でケーススタディとしてみましょう。

Case 1:
Aさんは、商品管理や選定を業務内容としているが、その他にホームページをちょっと作れる知識があるので、社のホームページを任されることになった。Aさんは、商品の管理をすると同時に、残業をしてホームページのほうも直さなければいけないことになった。一見、どちらも何とかこなせるように見えているが、実はAさん本来の商品選定や情報収集に割く時間が減り、高かったスキルが損なわれてしまった。社としては、Aさんの本来の能力が低下したことで、その分の業績が落ち込み、Aさんが作ったページも素人の片手間なので売上には繋がらなかった。更に、Aさんの残業代がコストを圧迫することになってしまった(※サービス残業なら、更にAさんのモラルを損ない、業績悪化の危険は高まります)。

Case 2:
Bさんは、間接部門の一員。ブログが趣味で、個人ブログを運営している。社でホームページを作ろうかという話が上がった際に、Bさんは率先して「無駄なお金をかけることはありません。私は自分でブログをやっていますし、私がやります」とその役を買って出た。Bさんの上司は間接業務畑だけにコスト意識が高く、Bさんの部門の業務遂行力に決して余力が無いことを懸念したが、結局そういうことになった。Bさんは仕事で好きなことがやれると、ホームページ作りに精を出した。しかし、本来の業務は怠業ぎみとなり、そのしわ寄せは他の社員に回っていく。最初のうちは「上の決定だから」と周りの社員達も代わりに仕事をカバーしてやるなど、協力的だった。が、部門の繁忙期を迎えて処理の限界に至ったある日、なおBさんがホームページいじりに没頭しているのを見て、部門全体の不満はとうとう頂点に達した…

これらのケースは最悪で、Aさん・Bさんの人的コストと能力を最大限に引き出して、事業に貢献させなかった経営判断に疑問ありと言えるかもしれません。この段階までひどくは無いにせよ、コスト計算や人事的な要素をも加味した見極めに至らずに、多忙・コストをケチるなどの理由で、安易に社内で何とか済ませようとする判断が、むしろ効果を上げなかったり、負担が将来の業績にまで響くかもしれないことは想像に難くありません。コンサルティングの見地から考えなくても、業態として「プロ」が存在する業務を「社内でなんとかする」、もはや現代では甚だ疑問的な方針でしょう。

こういった場合のベストな解決策は、ITを導入するならば、その専門部署や担当者を置くことですが、よほどITに依存するような事業でも無い限り、その固定費負担は軽くはありません。そんな場合には、アウトソーシングに頼ることで、経費の圧迫を避けて決算の数字を向上させられますし、その時点での経営判断としては概ね良しと言えるでしょう。このあたりのバランス感覚や判断が、実は目先にとらわれない上手なIT投資のコツです。

●では、次は「どういう結果を得ようか」という点です。結果=有効な投資ですね。ホームページによるイメージアップや差別化・売上への貢献もひとつ。業務システムの導入で、働く人たちがひとつになって効率よく会社が活動することもひとつ。それらがITへの有効な投資です。しかし、投資が「有効」となるためには「投資先」を考えなくてはいけません。投資先=どんなIT企業と組むか、ということですが、価格だけでも・実績だけでも・経歴だけでも、判断は下せません。色々な側面からの評価が必要ですが、見積りは金額だけを見積もらず、色々な部分まで見積もるつもりで、有効な投資になりそうかを判断する、これまたコツといえるかもしれません。

経営者や管理職の方にとっては、当たり前のようなことばかりで今更な内容でしたが、決算を終えて1ヵ月半経ったこの時期に、「業績があまり良くなかった」「もう少し…」と感じているなら、事業規模の大小や業種などに関わらず、今年度の事業戦略とIT投資について、更に踏み込んで考えをめぐらせるのもいいかもしれません。

2008年07月12日

危機管理

近年、危機管理(リスクマネジメント)と言う言葉が、以前に増して聞かれるようになりました。以前ならこの言葉は、「経営上の損失を回避するための手段」「キャッシュフローなど経営そのものについての対策」などを代表的に表わしていたのですが、最近では使われるシーンが異なってきており、「危機管理」は、ソーシャルな面での対峙を余儀なくされる状況が多いようです。

例えば、偽装・ずさんな処理などのモラル崩壊が明るみに出てしまう。社会通念上において多くの共感を得られない企業倫理と活動。トップや公式回答における失言(※本音)。そういった、事業活動の内部だけに留まらない、社会問題としての危機が増えている(※ないしは明らかになってきた)ように見えています。敢えて例を挙げることはしませんが、もしマスメディアだけに情報を依存していない方であれば、そういったニュースについては当方以上にご存知だと思います。

いくつかの不祥事を受けてか、「コーポレート・ガバナンス=企業統治:企業内部で健全化を進めよう」「コンプライアンス=企業の法令遵守」という言葉が浸透しました。しかし、実際はどうでしょうか。比較的、ガバナンスやコンプライアンスが機能しやすいと思われる大きな組織でさえ、様々な問題が次々と露呈してきています。そして露呈に至る経緯は、ガバナンス活動によって取締役会が問題を自ら提示する例などはほとんど聞かれず、モラルに疑問を感じた告発やリークに端を発するケースや、機関による調査などで、外部から指摘を受けるケースがほとんどです。

このこと自体は、別に不思議ではありません。組織は基本的に閉鎖空間である。会社は社を守ろうとする。強引な手段を採ってでも、業績を確保せねばという意思をもつ。「法人格」の人格において、人間臭い行動原理に基づいていると考えていいでしょう。しかし、そういった人間の生臭い感覚を、外部から見た「組織」において許さないのもまた、人の感覚です。多くの人は、「私企業たりと言えども公器である」という感覚を持っています。とはいえ、見る側の目にも生臭ささはあるのですが、少なくとも双方の立ち位置はそうである・と、まずは前提に考えましょう。

さて、危機管理問題が「次々と露呈してきている」状況下において、その危機を生み出してきた根底にあるものは何なのか?現代の危機管理とは何なのか?こういったことを考えてみたいと思いました。

まず、危機を生み出してきた根底ですが、危機を生み出す問題が、最近になって量産されてきたわけではない・と思っています。管理職扱いの残業だろうが、脱税だろうがパワハラだろうが、昔からあったことです。でも、現代と言う時代背景において、それらが問題となる状況が色々な要因によって出来上がってきたこと・それらが社会に紛れてしまう・カバーできる状況ではなくなってきたこと、それが近年の危機ではないかと考えられます。脱税は論外として、ほんの一例ではありますが、商品やサービスを提供していく上で、偽装などをしなければならない経営状況(※確信犯的に偽装などをして売上を増やしている例は問題外です)があり、所得の問題や人間関係に起因するうつ病などの社会問題が生まれてきたこと(※この問題を、根性が無い・甘え・能力差・性格など、ある種の精神論で片付けてはいけません。能力や責任感のある人がうつ病になりやすい・そういった本質を見る必要あり)などもあります。このような例からは、企業運営が難しくなってきたこと(※経済の縮退傾向)、暮らしの指向が上向きでは無くなって来たこと(※個人の余裕がなくなった)事などが見えてきます。

しかし、危機事態において問題を更に悪化させてしまうのが最近の特徴で、近年の不祥事の中では、「経営陣のモラル」「管理不行き届き」が問題を悪化させてしまう例が多いように見えます。もし、ここから学ぶとすれば、経営の意識をもう一度評価し直す必要があるかも?と考えてみることでしょう。「他山之石、可以攻玉」頻繁に起こる不祥事から、省みて根本的な問題への意識を持つことは、現在の社会において、企業や組織が、重要な成長とステップアップを目指す一段階と考えます。危機は、問題点も対処も、根本的なところから考えることで、回避できるのではないでしょうか。

それでは、危機管理の実際について考えてみます。

危機が起こったときに対策を行う・そのための準備をしておく
メディアや取引先に対して圧力を掛けるなどは、昔から行われていた手段(※力関係)ですが、近年の事後対策手段としては、(1)顧客対策・危機管理対策などの管理部門を設置して、お詫びや対応をマニュアル化しておく (2)最近では、ネットによる情報の広がりが注目(※問題視?)され、問題の沈静化や風説・風評被害を食い止めるために、ネットに張り付いて討論のコントロールや話題を逸らす・対象の掲示板やサービスを荒らす・他の問題に目を向けさせるなどのサービスを行う企業があると聞いています。例えば、こういった企業と契約をしておく。そして、問題が起こった際に出動してもらう。しかし、こういった事後対策は正解でしょうか?人の噂も75日と言いますが、ITによる情報の発信力と分散が進んだ今、インターネットと言う開かれた情報蓄積の場では75日目はなかなかやってきません。よって、今、こういった事後対策を改めて講じることは下策だと考えます。

危機の芽を摘む事前の対策
こちらのほうが難しいのですが、上策です。ほとんどの危機は「人災」です。経営判断や現場の指示などは一番多いケースでしょうが、おそらく誰もが苦々しく思うような謝罪会見をテレビで見たことがありますが、人災以外の何でも無いですね。そのせいで、経営危機に追い込まれる。会社の看板はなくなる。従業員は職を失う。えらいことですね。そう考えると、ネット時代・情報過多の時代において、悪事はどうも割に合わなくなっていますし、間抜けさは致命傷のようです。悪事がバレたらどうするか?を考えるのではなく、損害が起きないように事前の策を打つことが、これからのリスクマネージメントになると思います。というと、マキャベリズム的な考え方で「どう調べても偽装の事実が出てこないようにする」なんていう事前対策もあるかもしれませんが、今の情報時代では、なかなかそうも行かないでしょう(笑)。

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先に、危機を生むのは人災だと書きました。しかし、意識を変えていくことは、社会人にとってたやすいことではありません。黙っていても客が入ってくる状態で働いていた人間は、それが当たり前だと思い込んでしまう。働けば働くほど成績が上がる時代や環境下にあった人間は、努力すればなんでも達成できると思い込んでしまう。他人も自分と同じだと思ってしまう。イエスマンを周りに侍らすのは実に気分がいい。ですが、その「思い込み」は、その人の中で、基本的なロジックや人生訓として植えつけられ、行動原理や基礎的なパッションになってしまいます。この「思い込み」の恐いところは、“他者認識を損なうこと(ワンマン化や裸の王様化)・柔軟性を失うこと(論理構造が硬直して感情に頼る)・挫折や失敗、危急の事態への対処力が皆無になること(自分の想定や論理を超えたことに対処できない)”です。

そして、もしかしたら日本人の多くに言えるのかもしれませんが、第三者に潔さを求める傾向があるように思えます。率直に謝る・引き際を心得るなどなど。ですが、自分のこととなると、往生際が悪いのもまた傾向です。すっとぼける・見苦しい言い訳をする・責任を転嫁するなどなど。

人間ですから、それが自然なのですけれども、その自然をなかなか自分の中に認識として取り込むことは難しい。昨今の危機管理に相当する状況を色々と見るに付け、リスクマネージメントを考える際に、これからは他人事のようなお詫びや美辞麗句で糊塗するだけの、事後危機対策では取り繕えなくなるように思います。つまり、経営陣は失敗を犯さないようにより賢くなる・と思うのです。これは悪賢くなるというのではなく、先に述べた「重要な成長とステップアップ」であって、むしろ小賢しい事をしてしまった組織は、淘汰されるのではないかということです(※この見解の背景には、インターネットの存在があるのですが、些かネットを過大評価した見解でしょうか?)。

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これまで書いたことは、別に目新しい見解でもなんでもないので、書いていながら「何千年も人間は変わらないのかな」などと考えます。最近、プラウト主義経済学を読んでみたいなと思っているのですが、少しだけ聞き及んだ点を見ると、地球規模や民族で許容できたり受け入れることの出来そうな重なりが微妙に薄い印象を受けると共に、こりゃかなり経済的に・社会的に悲惨な状況にならない限りは、人間こうはならないかな?といった感じを受けました。でも、今後の社会的な要求がどこに向かうのか・これからの経済のカギを握るのは何なのか・などを併せて考えると、なかなか面白そうでもあります。

最後になりますが、ITという分野での危機管理というと「情報の管理」に尽きます。こちらは、情報の紛失や流出に関する対策は具体的に講じられますので、情報の電子化や効率化なども併せて、ご相談があればお気軽にお願いします。

2008年07月16日

iPhoneを契機に・現在(いま)のウェブ・リニューアルで目指すポイント

iPhoneの機能ではなく、iPhoneの存在感に注目

iPhoneが発売になりました。機能面や使い勝手など、賛否両論は様々にありますが、Appleらしい商品ではないかと思います。Appleと言えばMacintosh、私が始めて触ったのはSE/30で、その後サウンドの仕事をしている頃まで何台かMacを買い継いでいましたが、その頃からiPod・iPhoneに至るまで、営業戦略やマーケティングに関して多少の揺らぎはあったものの、“Apple”のCI(corporate identity / コーポレート・アイデンティティ・企業の特徴や理念など特有のイメージなど)は一貫しているように思います。iPhoneに関しては、当方の契約しているキャリアが違うので買いませんけれども…(もっとも当方はソフト屋さんですから、ソフトのマイナーリビジョンが上がるくらいまで、どんなハードウェアでも我慢して買わないほうです)。

そのiPhoneとAppleを見ていて思うのですが、そこには確固たる存在感があり、明確な製品イメージ・ブランディングが見えてきます。このことは、ホームページのリニューアルや改装について、学ぶべき点を見せてくれるように思います。そこで、今回のテーマは「ウェブの重要性がより高まり、更にその傾向が進む一方である。そして、誰もが同じように考えるはず。だから、企業や個人のウェブサイトには明確な意図を持たせて、隙を作ってはいけない」として、現在リニューアルをするにはどういったアプローチを採ればいいのかを考えます。

とうに変革の過渡期を迎えているメディアの周辺

その前に、まず製品イメージやブランディングに関して重要な露出である「広告宣伝」についての現在を見てみましょう。今、テレビの広告収入が激減していると聞きます。テレビの番組作りと広告に関する、テレビに近い立場の方々からの辛辣な論評も目にします。昔であれば、特定の企業だけがテレビで広告を出すことが出来て、その影響は計り知れませんでした。テレビで宣伝をしていれば一流企業の証ですし、広告の受け手である視聴者も、そこに安心を見出していました。

その状況が、明らかにインターネットによって変わってきました。情報を結ぶベクトルの先にあったテレビ・ラジオ・雑誌や新聞に、ネットという新たな方向が加わったこと、それは同時に個人が処理できる情報量を上回ってしまうことを指します。つまり、企業(※自社でも個人でも)のウェブサイトを1回見てもらうという機会が少なくなっている=見てもらうことの重要さが増していると言えます。

Appleの方法論や考えを類推する

Appleは、自社のアイデンティティをきちんと確立させるマーケティングで、ブランディングと製品ラインアップに一体感をもたせています。つまり、想定しているターゲットを明確に位置づけており、「リンゴのマーク・白をポイントに使うカラーリング・広告のキャッチコピーやフォント・インダストリアルデザイン」などの全てが、顧客に対してあらゆるシーンで結びつき、一体感を感じるようになっています。言ってみれば、どこの誰にでも買ってもらえる製品は特徴が無い(=アピール力が弱い)、すなわち、明確にAppleの商品を買ってもらえるような「顧客を作る」ことを目指しているというように考えられます。これは、昔から「Mac信者」「マカー」(※主に悪口で使われるようですが、そういう層が存在すると言うことをフラットに考えてください)などの言葉で表わされるように、Apple商品の存在感とその顧客関係が、明確に現れていることからも理解にたどり着けると思います。

ウェブのリニューアルでAppleに学ぶべきは何か?

先の段では、ウェブを見てもらうことの大事さについて触れました。そして、Appleの存在感について述べました。では、Appleの真似をしてウェブを構成してみようか?会社のロゴを全ページに張って、イメージカラーで全ページを彩って、自社の製品イメージをウェブデザインにも取り入れて…なんて、それは間違いですね。と言いますか、現在ならその程度のことは誰でもやっています。

では、Appleの何を学ぶか。それは、その存在感なのです。はっきり言ってしまえば、存在感を演出できるかどうかです。Appleは、自社の製品と購入する顧客の層を明確に位置づけて、それを実現するための様々なマーケティングを行ってきました。ですから、Appleのやってきた戦術は、Appleの持つ戦略に則って行われてきたものであり、結果としてそれがきちんとしたブランドと購買層を作り上げ、更に購買層の拡大を果たした。それこそが、AppleがAppleだからという存在感なのです。それを、そのまま真似しても仕方がありません。

「今」がどういう時代なのかを考える

繰り返しになりますが、一度ホームページを見てもらうことが、今の時代でどれだけ大切なのかを述べました。近年では、医院の廃業や医師の経営難など、昔ならちょっと考えられないような話も耳にします。企業は更に厳しい立場ですが、士業の方、旅館やホテルなどのサービス産業、いずれもウェブの影響はこれから益々大きくなるでしょう。そういった流れを考えると、もしホームページのリニューアルを考えるなら、過渡期である今ではないかと思います。“ホームページ、今のままで大丈夫?”見直してみるなら、今がいい機会だと思います。

存在感はケースバイケースで、「それぞれの企業やサービスの魅力と顧客関係」と言う漠然とした言葉でしか言えないのですが、一回のホームページの閲覧が大事なら、そこに存在感を持たせることを考えなくてはならない時代です。そして、それを実現できるIT関連の企業が、これから重視されるのではないでしょうか。ただ、マスメディア広告代理店の巨頭である電通ですら、ネットのフィールドではセカンドライフの展開に失敗しています。ITも多数の企業がありますが、リニューアル担当の選定には、シビアな選択眼が必要なのかもしれません。

2008年09月29日

コンサルティング視点で見る中小企業のIT導入と効果

小さい案件ではホームページの制作と開発から、大きいところでは基幹システムの導入まで、この10年くらいで各産業へのIT導入が進められました。その導入をサポートしたITベンダーやSIerの公表するクライアントからの導入リアクションを見ると、「導入されたお客様に非常に喜んで頂けた」「IT設備投資による効果を感じられたと喜ばれた」「●●株式会社における弊社システムの導入事例」など、見事なまでの美辞麗句が並んでいます。最も、自社のアピールで「見事に導入に失敗し、取引を打ち切られました」「導入したシステムの維持費で却って赤字になったようです」「IT研修を終えて1週間の開発チームが担当したところ、バグや想定外の動作で、弊社もクライアントも損失計上となりました」なんて、書くわけがありませんが…。

ところで、実際にベンダーやSIer、また小さいところではSEO業者やホームページ制作会社などが行ったIT投資は、どのような結果となっているのか。やってよかった?失敗したのか?無駄だった?…こういうことは、やはり資料を分析して調査しなければ全然判りません。そこで、商工中金が今年(平成20年)5月に発表した中小企業の IT 活用に関する調査を見てみましょう。この資料を元に、ITコンサルタントのコンサルティングのケーススタディっぽく「どのデータに注目し、どうデータをリンクさせて、ソリューションを得るのか」を、分析を交えながら考えていきましょう。

まず、IT化は確実に進んでおります。企業内へのインターネット回線の導入はほぼ完了、社内LANの環境や自社のホームページも7割が済ませています。ITの基礎的な土台への設備投資は、ほぼ完了といえるでしょう。全業種に亘って高い普及率と満足度を与えているIT活用は何かといえば、基礎的なメール・ホームページ閲覧・社内のファイル共有がほとんどです。しかし、です。インターネットのインフラがほぼ全国に行き渡っている現在、この用途でIT設備投資への不満が出ることはほぼ無いため、この点からIT導入の効果や満足度を評価するのは意味がなさそうです。

意外なことに、メディアでこれだけIT屋が大騒ぎしているにもかかわらず、データベースやシステムソフトウェアなど業務支援へのIT投資や、電子商取引におけるIT活用は、実はそれほど進んでいません(※引用資料の3P [図表1-2] ITの活用状況 より)。取り分け、顧客のデータをまとめてビジネスに活用する顧客管理分野でのIT活用は半数程度、またウェブ上で販路を作る電子商取引分野にいたっては、2割前後の導入実績しかありません。このことから、中小企業においてのIT投資は、まだまだ発展途上である事が窺えます。

なぜ、これまで中小企業のシステム関連のIT化が進まなかったのでしょうか?この点は、コンサルティングにおいて最も重要な分析対象になります。その背景には、もちろん各企業の固有事情もありますが、統計として注視しなくてはならないデータがあります。それは、投資意欲は今後もそれほどの拡大を示していないというデータです。ITという言葉がメジャーになって、「インパク」など国策主導でIT化への流れが始まってから10年余、その時から現在までのスパンにおけるIT導入済み企業の増加割合と、今後のIT投資意欲を数式化してみると、あろうことかトレンドとしての意欲は鈍いのです。

このことは、SIerやベンダーは大企業向けの製品やソリューションに注力してきたけれども、中小企業にとって“適切”なIT化を提案するベンダーやコンサルタントがいなかった・中小企業は無視されてきた事が一因にあります。また、中小企業特有の状況についても考慮しなくてはなりません。トップ高齢化などによる経営のパターン化・トップダウンによるリーダーシップ=経営戦略と投資判断などに、IT化も左右されるなどの理由も浮かび上がってきます。加えて、トップが感じるIT化への意識として、自社のIT化は、だいたい他の企業と同程度だろうからこれでいいと思い込んでしまい、それ以上のIT導入に対して思考停止してしまう。こういった点も挙げられます(中小企業の経営体制に特有の意思決定システムは、時としてデリケートな点です)。このような意識も、統計資料には表れてきます。IT化の遅れに危機感が伴っていないことをも暗に示すデータです。

また、『IT活用によって得られた効果に対しての総合的な評価』を、引用資料の前回調査時から4年後の今回の調査結果と対比して見ると、ほぼ同じ割合を示しています(※引用資料の9P [図表4-1] IT活用の総合的な効果 より)。これはいったいどういうことなのか?4年間の期間があって、IT導入は増加しているのに、効果を感じている企業割合が同数であるということは、IT化を担当したベンダーやSIerなどが、より活用に値するスキームを全く出していない?要因が存在する可能性も考慮に入ってくると思います。

つまり、中小企業の中でIT導入に失敗したと考えている企業もあるわけで、このことは「費用対効果」「初期費用とランニングコスト」が、IT設備投資への大きな障壁と考えている企業が多いことも無関係とはいえないでしょう(※引用資料の19P [図表7-1] IT化の障害や制約 より)。もちろん、このデータは純粋な費用対効果としてのデータというよりも、むしろ印象的な回答と捉えることが出来るので、昨今の売上不振などがより総合評価を落としていることも考えられますが…。

それでは、以上のデータと見方を元に、中小企業でIT導入を行うためには、どういった提案が必要とされるのかを、箇条書きにしてみましょう。

  • IT化が思ったより進んでいない現状を理解、IT導入への基礎的な啓蒙
  • 大企業ほどsystematicではない為、IT戦略すら顧客に合わせたカスタマイズが必須
  • IT導入の投資価値は、より具体的に示される必要がある
  • 企業の体力に合わせた、段階的で無理の無いIT導入支援を

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予想以上に中小企業でのIT化が進んでいないことに、驚く方も多いと思います。このままでは、ITを活用する術を知らないまま、どんどん遅れを取る企業や、IT化に失敗して経営難に陥る企業も出てきて当然といった統計です。現在の厳しい経済状況で中小企業が頑張るには、経営資源の有効活用と、一つ上の経営判断や戦略が必要となることは間違いありません。中小企業のIT化が思ったより進んでいないというデータが示すことは、考えようによっては、今の時期でも他に先んずることが出来ると考えることが出来ますから、社内会議などでITに関してを積極的な議題とするには、重要なタイミングかもしれません。

先に引用した統計資料には、企業から提出された自由記載欄の生の意見も多く掲載されています。当方ではコンサルティングの現場で、漠然としたお話も含めて色々とお伺いしていますが、具体的な内容がわからなくて当たり前だと思いますし、そういった単純な疑問や効果について、なんとなくでもご質問頂ければ、理解に繋がるようなお答えを必ず出すようにしています。今回は、データ分析から始まる、コンサルティングのごくごく一部分を紹介してみました。

2008年10月07日

景気悪化と売上減への対策を考える

日本経済新聞社が全国の社長さんを対象にしたアンケートの結果によれば、景気悪化を感じている割合が9割に達し、前回調査時より悪化しているとの事です(※参照:NIKKEI NET 20081006AT1D030CP05102008.html。もちろんアンケートですから、この結果は具体的なデータや数字に基づくものではなく、気分や雰囲気による回答とも言えますが、どんなマーケットでも商売においても、経済学理論よりもまずは「人の気持ち」が至近の影響を作ることを考えると、看過できないトレンドであるといえます。

このアンケート結果が出た背景には、誰にとってもわかりやすい材料があります。日経平均という総合的なインデックスの下落、国際的な信用不安の直撃を受けた金融・証券の混乱・プチ不動産バブル崩壊による不動産ディベロッパーの倒産が相次いだこと、実際にアンケートに答えた企業の売上が低下している(かもしれない)こと。材料の多くに、誰にとっても身近な社会インフラに関わるマイナス材料がありますので、誰もが「あー景気が悪いな」という気分になり易いでしょう。全業種に亘る9割が景気悪化を感じても、不思議ではありません。

金融経済が実体経済の上に位置して世界経済を構築していた状況下で、最も流動性の高いお金を基にした、お金そのものしか介在しない経済分野で危機が始まったことが、実体経済を含めて全体に影響するのは極めて当然です。このあたりは、今わかったことではありませんので、改めての言及は不要でしょう。そして、景気回復が早急に見込めるかどうか・また回復するとしたら何をファクターにして、どのような形で回復するのかは不透明です(※経済成長を望むのであれば、かつてのようになんらかのバブルの反復が必要なのですが…この先、そういう時代になるかどうか?)。

ごくごく私的なことですが、当方は経済学部に在籍し、金融論を専攻していました。が、実体経済と相対的に見て考えることが多く、先進経済からみれば時代遅れともコンサバティブとも・むしろ頑ななまでに、証券や保険などの金融商品に関しての投資をしませんでした。お陰でというべきか、今回の金融不安で直接の不利益を蒙ることはありませんでした。とはいえ、今のところ「直接的には」です。金融経済に参加していたマネーの影響が出るのは、これからです。

問題は、この景気悪化が、金融分野から一般の事業者や人の暮らしへと影響が広がってくることです。この辺も、マクロ経済政策や景気刺激策など、色々な話が出ていますが、なかなか難しいところです。経済学理論の根底には、人を「経済的な合理性」を持つ(※=誰もが利益追求の一点を選択する)という前提で考えますが、経済社会学の立場で見れば、そうとも限らない。むしろ混乱・不満・不安が軽視できない現状なら、それぞれの立場でそれぞれの思惑で、何がどうなるか分からないような気もします(※政策決定や大企業の経営方針など、影響を及ぼす範囲が大きいところの行動は、その姿勢と卓見が問われると思います。経済を構築しているのは、先の構造改革の結果が良かったのか悪かったのか?などを考えている、大多数の普通の人たちですから)。

従いまして、今、マクロ的な状況に対してどうこう・ということを、ここで述べても仕方が無いような気がします。もしこれから、世界を取り巻く金融不況で何かが変わるにしても、それは恐らく徐々に進行していくはずですし、マクロ的な状況がどう変わっていくかに関しては、ただ見ているしかない。当方のように一介の人間は、世論の一構成要素として文句を言ったり嘆いたりしながらも、結局は不景気に不満や不安を抱いているよりも、現状を把握して対策を考える事しかありません。

当方のような普通の経営者が、今の景気悪化に対して・また景気悪化に伴う売上の低下や低迷に対して、どういった対策を採ればいいのか?について、考えてみたいと思います。前で述べましたが、急激な構造変化が世界経済を覆って、いきなり生活が変わるということはありえないですが、景気のリセッションが、これまで以上に存在感を増し、これまでより速い速度で企業の循環や淘汰が進むと考えられます。残念ながら、今存在している企業を存続させて支えるだけの力が、経済全体になくなってくると思います。従って、まずは放漫な経営や信頼を伴わない企業(※団体でも)の倒産や廃業が加速するでしょう。これは、テレビなど一般向けメディアで得られる情報だけでも、昨今の企業倒産事例や社会保険庁の解体などで分かると思います。ということは、まずは実直に経営していること。企業全体を一つの力として考えられること。更に出来れば、よりクレバーな経営能力を持てることといった資質を備えていなければ、簡単にはじき出されてしまう・ということです。まずは現在の不況や世相に対するガードを固めることが、第一の対策でしょう。

当方はIT分野でのコンサルティングですから、ITによる対策案を一つ考えるとすれば、IT流行時代に作った企業のホームページやサービスなどを再構築することが挙げられます。ネットの評判が企業のイメージや信頼まで影響する時代にあって、昔のIT屋が作ったページでは、あまりに粗が多すぎますし、アピールすべき点も、当時の古臭いウェブ制作コンセプトのままです。敢えて苦言を呈するなら、むしろコンセプトなどは不在で、体裁だけのホームページのまま放ったらかしている企業が少なくないように思います(※中小企業のITに対する資料などを過去のコラムコンサルティング視点で見る中小企業のIT導入と効果 に掲載しています。後ほどご参照ください)。これだけ家庭でも携帯でもネットの情報が力を持っている時代では、ネットにおける情報の公開に対する戦略作りと実施は、企業インフラとして最低ラインだと考えられます(※出版の低迷・テレビ視聴に割く時間の低下などを見れば分かるとおり、ITのインフラ価値を理解しなければならない状況です)。

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次の対策は、淘汰されない需要の肝は何か?へのフォローアップと実施が考えられます。需要が低迷するということは、ミクロ見地では購買側の妥協点が高くなるということですので、サービスや品質が「選択される」ことを意味します。どんな取引や商売でも同様で、これまでの評判や利点・顧客などに胡坐をかいていると、選択肢から外される可能性があります。様々な取引の場において、長年付き合いのあった下請けでも簡単に取引が切られてしまいかねない「過剰な投資意欲の低下・体力維持指向」の風潮が、不景気の状況下では否応なく発生します。この点に関しても、様々な実際のケースをご存知の方は多いと思います。

また、今回の不景気でも、「攻めの対策」が考慮に入る余地はあると考えられます。色々なサービスにおいて、大量生産消費型の極みであるメガ集約や再編などの大企業化がもたらす害も、一般の人にとって見えやすくなってきました。逆に言えば、攻めどころはそういったところにあります。

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現状における一般企業の不景気に抗する具体的な対策を考えてみましたが、一口に不景気といっても、その原因や構造は、その都度異なるものですから、いつでも同じ理論やパターンが通用するわけではありません。今回の不景気は、「不景気だからしょうがねえ」と我慢して思考停止していたり、これまでと同じような「人件費削減をはじめとする経費削減」などしか策の無い企業は、簡単に無くなるような気がしています。

IT業界も蚊帳の外ではありません。多くの企業で設備投資意欲が下がっている状況で、これまで提供するサービスの品質も、経験と学習が未熟な派遣を使用したりで決して高くはなく、放漫経営や人材の使い捨てなどに厳しい目が向けられる事もありましたから、大手ITゼネコンの倒産や、メディアが大好きな言葉「業界再編」が起こるかもしれません。今はまだ、目立った動きでは株価の信じがたい下落くらいしかありませんが、IT業界は、これまで結構めちゃくちゃなことをしてきたので、今回の信用不安はどう影響するのでしょうか。

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