日本経済新聞社が全国の社長さんを対象にしたアンケートの結果によれば、景気悪化を感じている割合が9割に達し、前回調査時より悪化しているとの事です(※参照:NIKKEI NET 20081006AT1D030CP05102008.html。もちろんアンケートですから、この結果は具体的なデータや数字に基づくものではなく、気分や雰囲気による回答とも言えますが、どんなマーケットでも商売においても、経済学理論よりもまずは「人の気持ち」が至近の影響を作ることを考えると、看過できないトレンドであるといえます。
このアンケート結果が出た背景には、誰にとってもわかりやすい材料があります。日経平均という総合的なインデックスの下落、国際的な信用不安の直撃を受けた金融・証券の混乱・プチ不動産バブル崩壊による不動産ディベロッパーの倒産が相次いだこと、実際にアンケートに答えた企業の売上が低下している(かもしれない)こと。材料の多くに、誰にとっても身近な社会インフラに関わるマイナス材料がありますので、誰もが「あー景気が悪いな」という気分になり易いでしょう。全業種に亘る9割が景気悪化を感じても、不思議ではありません。
金融経済が実体経済の上に位置して世界経済を構築していた状況下で、最も流動性の高いお金を基にした、お金そのものしか介在しない経済分野で危機が始まったことが、実体経済を含めて全体に影響するのは極めて当然です。このあたりは、今わかったことではありませんので、改めての言及は不要でしょう。そして、景気回復が早急に見込めるかどうか・また回復するとしたら何をファクターにして、どのような形で回復するのかは不透明です(※経済成長を望むのであれば、かつてのようになんらかのバブルの反復が必要なのですが…この先、そういう時代になるかどうか?)。
ごくごく私的なことですが、当方は経済学部に在籍し、金融論を専攻していました。が、実体経済と相対的に見て考えることが多く、先進経済からみれば時代遅れともコンサバティブとも・むしろ頑ななまでに、証券や保険などの金融商品に関しての投資をしませんでした。お陰でというべきか、今回の金融不安で直接の不利益を蒙ることはありませんでした。とはいえ、今のところ「直接的には」です。金融経済に参加していたマネーの影響が出るのは、これからです。
問題は、この景気悪化が、金融分野から一般の事業者や人の暮らしへと影響が広がってくることです。この辺も、マクロ経済政策や景気刺激策など、色々な話が出ていますが、なかなか難しいところです。経済学理論の根底には、人を「経済的な合理性」を持つ(※=誰もが利益追求の一点を選択する)という前提で考えますが、経済社会学の立場で見れば、そうとも限らない。むしろ混乱・不満・不安が軽視できない現状なら、それぞれの立場でそれぞれの思惑で、何がどうなるか分からないような気もします(※政策決定や大企業の経営方針など、影響を及ぼす範囲が大きいところの行動は、その姿勢と卓見が問われると思います。経済を構築しているのは、先の構造改革の結果が良かったのか悪かったのか?などを考えている、大多数の普通の人たちですから)。
従いまして、今、マクロ的な状況に対してどうこう・ということを、ここで述べても仕方が無いような気がします。もしこれから、世界を取り巻く金融不況で何かが変わるにしても、それは恐らく徐々に進行していくはずですし、マクロ的な状況がどう変わっていくかに関しては、ただ見ているしかない。当方のように一介の人間は、世論の一構成要素として文句を言ったり嘆いたりしながらも、結局は不景気に不満や不安を抱いているよりも、現状を把握して対策を考える事しかありません。
当方のような普通の経営者が、今の景気悪化に対して・また景気悪化に伴う売上の低下や低迷に対して、どういった対策を採ればいいのか?について、考えてみたいと思います。前で述べましたが、急激な構造変化が世界経済を覆って、いきなり生活が変わるということはありえないですが、景気のリセッションが、これまで以上に存在感を増し、これまでより速い速度で企業の循環や淘汰が進むと考えられます。残念ながら、今存在している企業を存続させて支えるだけの力が、経済全体になくなってくると思います。従って、まずは放漫な経営や信頼を伴わない企業(※団体でも)の倒産や廃業が加速するでしょう。これは、テレビなど一般向けメディアで得られる情報だけでも、昨今の企業倒産事例や社会保険庁の解体などで分かると思います。ということは、まずは実直に経営していること。企業全体を一つの力として考えられること。更に出来れば、よりクレバーな経営能力を持てることといった資質を備えていなければ、簡単にはじき出されてしまう・ということです。まずは現在の不況や世相に対するガードを固めることが、第一の対策でしょう。
当方はIT分野でのコンサルティングですから、ITによる対策案を一つ考えるとすれば、IT流行時代に作った企業のホームページやサービスなどを再構築することが挙げられます。ネットの評判が企業のイメージや信頼まで影響する時代にあって、昔のIT屋が作ったページでは、あまりに粗が多すぎますし、アピールすべき点も、当時の古臭いウェブ制作コンセプトのままです。敢えて苦言を呈するなら、むしろコンセプトなどは不在で、体裁だけのホームページのまま放ったらかしている企業が少なくないように思います(※中小企業のITに対する資料などを過去のコラムコンサルティング視点で見る中小企業のIT導入と効果 に掲載しています。後ほどご参照ください)。これだけ家庭でも携帯でもネットの情報が力を持っている時代では、ネットにおける情報の公開に対する戦略作りと実施は、企業インフラとして最低ラインだと考えられます(※出版の低迷・テレビ視聴に割く時間の低下などを見れば分かるとおり、ITのインフラ価値を理解しなければならない状況です)。
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次の対策は、淘汰されない需要の肝は何か?へのフォローアップと実施が考えられます。需要が低迷するということは、ミクロ見地では購買側の妥協点が高くなるということですので、サービスや品質が「選択される」ことを意味します。どんな取引や商売でも同様で、これまでの評判や利点・顧客などに胡坐をかいていると、選択肢から外される可能性があります。様々な取引の場において、長年付き合いのあった下請けでも簡単に取引が切られてしまいかねない「過剰な投資意欲の低下・体力維持指向」の風潮が、不景気の状況下では否応なく発生します。この点に関しても、様々な実際のケースをご存知の方は多いと思います。
また、今回の不景気でも、「攻めの対策」が考慮に入る余地はあると考えられます。色々なサービスにおいて、大量生産消費型の極みであるメガ集約や再編などの大企業化がもたらす害も、一般の人にとって見えやすくなってきました。逆に言えば、攻めどころはそういったところにあります。
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現状における一般企業の不景気に抗する具体的な対策を考えてみましたが、一口に不景気といっても、その原因や構造は、その都度異なるものですから、いつでも同じ理論やパターンが通用するわけではありません。今回の不景気は、「不景気だからしょうがねえ」と我慢して思考停止していたり、これまでと同じような「人件費削減をはじめとする経費削減」などしか策の無い企業は、簡単に無くなるような気がしています。
IT業界も蚊帳の外ではありません。多くの企業で設備投資意欲が下がっている状況で、これまで提供するサービスの品質も、経験と学習が未熟な派遣を使用したりで決して高くはなく、放漫経営や人材の使い捨てなどに厳しい目が向けられる事もありましたから、大手ITゼネコンの倒産や、メディアが大好きな言葉「業界再編」が起こるかもしれません。今はまだ、目立った動きでは株価の信じがたい下落くらいしかありませんが、IT業界は、これまで結構めちゃくちゃなことをしてきたので、今回の信用不安はどう影響するのでしょうか。